佐久間悠治理事長(以下、佐久間)
本日はお忙しいなか、貴重なお時間をいただきまして誠にありがとうございます。本年度は郡山青年会議所理事長所信の中で「つながりを通してこの街をよりよくしたい」をキーワードの一つとして掲げております。サッカーを通して福島を盛り上げ、地域に根ざした活動を行う尚志高等学校サッカー部監督の仲村様と「組織と地域との関わりについて」というテーマで対談をさせていただければと考えております。仲村様は、尚志高等学校サッカー部監督をされて二十七年とお伺いしました。今の尚志高等学校サッカー部(以下、サッカー部)の全容や目標
についてお話をお聞かせ願います。
尚志高等学校サッカー部監督仲村浩二氏(以下、仲村)
私たちの目標は「全国制覇」です。絶対に全国で優勝したいという思いを持ってサッカーに向き合っています。全国高校学校サッカー選手権大会(以下、選手権)で二回、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)で一回と計三回ベ
スト四に進んでいますが、優勝というゴールを達成していません。この目標を二〇二七年までに成し遂げたいと思っています。チームがさらに強くなっているなかで、地域との関わりが今後より一層必要になってくると感じています。また東日本大震災後、運動ができない環境下で運動不足から小学生の肥満がとても問題視されるようになりました。震災後、校内のグラウンドが人工芝に変わり、その環境を利用して子どもたちがのびのびとサッカーができるサッカースクールを立ち上げました。その後、中学校のジュニアユースと小学生のジュニアを設立しま
した。尚志高等学校だけで一貫した指導を行い、サッカー部を強くしていくことを目標に活動しています。
佐久間
ありがとうございます。私自身も小学校からサッカーを続けていて、強いだけではなく、まずは人間性を育むように指導してもらった記憶があります。仲村様が二十七年間サッカーを指導してきて子どもたちの接し方について少しずつ変化していると思います。現在指導するにあたり、大切にされていることをお聞かせください。
仲村
一番大切にしていることは、「選手たちが卒業してからもサッカーに携わるよう指導すること」です。高校から大学へ進学する時、大学から社会人になる時とさまざまな理由でサッカーを辞めてしまうことがいつの時代もあります。サッカー部の選手はサッカーが大好きで、一番の目標はプロサッカー選手になることです。Jリーグで活躍する選手や海外で戦う選手を輩出するようになり、今後もそのような選手を輩出するのが目標ですが、私のように教員としてサッカーを教えるという方法もあります。また、父親になって子どもにサッカーを教えたり応援することも、サッカーの醍醐味だと思っています。プロサッカー選手だけでなくJリーグの各チームでスポーツトレーナーや通訳、映像分析を行うアナリストなど様々な分野でサッカー部OBが活躍しており、交流が図れるというつながりをとても大事にしています。また、私を含めたスタッフは組織の一員であり、毎年メンバーも変わります。スタッフ全員が「全国制覇」という同じ目標に向かうことはもちろんですが、生徒たちを成長させるというもう一つの目標にも向き合わなくてはなりません。今の生徒たちは理解しないと動かないのが特徴だと思
います。このトレーニングが目的に沿っているかどうか理解しないとなかなか動きません。幸い、サッカー部は全員が「全国制覇」という目標のために全国から集まって来ていますので、皆で困難に立ち向かいます。
佐久間
私も理事長として組織を率いるようになりビジョンを掲げることは、と
ても大事だと思います。「全国制覇」という大きなビジョンがあり、その
ためにチーム一丸となり行動していくのだと思います。仲村様のお話か
ら、「全国制覇」という目標を掲げて行動することは大切なことである
と感じています。私たちも今年は「つながり」をテーマに活動をしており、
当青年会議所の現役会員が六十九名に対し、OB会会員が約四〇〇人います。先輩方の経験談などは勉強になりますので、今後もつながりを大事にしたいと感じています。私自身もこの地域のために何か恩返しをしたいという想いがある中で、仲村様のように地域で活躍されている方の活動に私たちがご一緒させていた
だくことで、この地域がサッカーというツールを通して何かおもしろい変化を起こせるのではないかと期待が高まっています。今の子どもたちは「理解しないと動かない」と仰っていましたが、まさしく私たちの組織もそうであると思っています。例えば、社員であれば給料が発生することで動きますが、青年会議所は給
料などが発生するわけではありませんので、理事長の想いや考えでメンバーを導くことがとても大切な要素になります。また、部活動と同様に私たち青年会議所も単年度制を用いており、役割が毎年異なります。新チームになった時、メンバーへの声掛けや接し方など意識していることなどございましたらお聞かせくださ
い。
仲村
新チームになるとスローガンを最初に掲げるのですが、今年のスローガ
ンは「下剋上」です。サッカー部は強豪校と呼ばれるが故に、常に勝利
を求められる宿命にあります。ここ数年の選手権全国大会では一、二回戦で負け
てしまうというのが多く、昨年までは高円宮杯JFA U- 十八サッカープレミアリーグ(以下、プレミアリーグ)に所属していましたが、今年度は降格してしまいました。今年はプレミアリーグに戻らないといけない、やらないといけないという状況の中で、スローガンに掲げた「下剋上」がチームのモットーです。一昨年トップチームがプレミアリーグに昇格した時も、セカンドチーム、サードチームなど各カテゴリーに各々のスタッフが監督としているため極端に弱くなることがありません。昨年高円宮杯JFA U- 十八サッカープリンスリーグ東北で活躍した選手たちが今年三年生になったため、スタートダッシュとして東北高等学校新人サッカー選手権大会で優勝することができました。二〇二四年開催のU- 十六ルーキーリーグでも全国二位になっているので、繰り返しになりますが二〇二七年ま
での三年間で全国制覇することを目標にしています。
佐久間
そのようななかでスタッフに対しては、どのような声掛けやビジョンを
見せているのでしょうか、お聞かせください。
仲村
スタッフには私がやりたいサッカーをきちんと理解してもらいます。
サッカーに正解はなくさまざまな考えや指導方法があると思います
が、私は自分の陣地から繋いで相手を翻弄しながら進んでいくという戦
術を大切にしています。勝ちにこだわるのも大事ですが、サッカー部は
それだけではないものを創造しようと日々練習しています。個人的には
この様な環境下でプロの選手が育てば良いと思っており、スタッフには
そのように働きかけています。ただし教員スタッフや学校で採用されて
いるスタッフは、給料の面まで私では関われません。寮職員などは給料
が十分ではなく悩みを抱えているスタッフもいるので、副業などを取り
入れることでスタッフがもっと安定した給料をもらえないかと試行錯誤
しているところです。そのようななかでもスタッフは文句を言わず、本
当に頑張っています。あるスタッフは、「仲村監督を全国制覇させる目
標を持って活動しています」と伝えてくれました。そういうことも含め
て本当ににありがたいなと思います。
佐久間
ありがとうございます。仲村様はプロで活躍されて経験値がとても高いので、
選手がミスしたときに、キーワードを伝える事で、選手自身に考えさせて結果につなげるという指導方法に感銘を受けています。私も組織を率いるなかでメンバーに答えを容易く教えてしまうと、そのなかでしか動かないと考えています。仲村様はキーワードとして「楽しめ」という言葉を使用していました。選手が自ら考え、用意した答えではない新しい答えを導き出したり、よりグレードアップしたものが生まれる可能性を秘めていると思います。「楽しめ」という言葉は、どういったきっかけのなかで生まれたものだったのでしょうか。お聞かせください。
仲村
楽しめないと良いプレーにつながらないと思います。そしてサッカーが
楽しくないと辞めてしまいます。そういったことも含めて「サッカーを
楽しもう」というのが私の信念です。私が選手たちに伝えることは自
ら考え工夫して行動しようということであり、結局考えるということが
ないと受け身の状態になり、選手たちの成長につながらないと考えてい
ます。サッカー部には新入生で世代別日本代表を経験した選手やJリー
グの下部組織に所属していた選手が入ってきます。地元のクラブチーム
でプレーしていた選手たちは、劣等感を抱いたりしていますが、経歴な
どを度外視し、選手自身がどれだけ努力するのかを私は見ています。そ
のため、三年生になった時に自分で考えて工夫して行動することをやり
続けた選手が最終的に試合に出場しています。キーワードを与えたら能
動的に活動する選手と、何から何まで教えてくれる環境にいることで、自分で考える力が乏しくなる選手では顕著に差が出ます。今現在はスタッフが手取り足取りサポートしてくれますが、プロの舞台に行ったら試合に出ることが給料に直接結びつきます。ピッチにお金が落ちているとよく言われますが、自分自身で
どうやって表現するか、考えて工夫して努力しないとトッププロにはなれません。日本代表など上のカテゴリーに行くほど、自ら工夫して考えた表現力が重要な部分になると考えます。
佐久間
ありがとうございます。私自身も仲村様が仰る「考えて工夫して行動するこ
と」が非常に重要であり、組織運営や会社経営も一緒だと考えます。私
たちの組織は経営者が多く所属しており、会社で叱られる機会はほとん
どありません。しかし当青年会議所は会社の肩書など関係なしに人から
叱っていただくこともあり、私自身はそのことが成長につながると思い
ます。そのような組織が私自身は必要だと思っていますし、たくさんの方とお話しするなかで、教育の重要性を常日頃感じています。私自身、小学生の子どもがいますが、私たちが地域のために何ができるのかと考えた時、高校生や大学生にロールモデルとなる人材を輩出することが大事だと思います。仲村様が指導され
た選手のなかには、現在海外や日本のトップリーグで活躍している選手も多くいるかと思います。そのようなロールモデルを作られたのが非常に興味深いです。彼らを育てるにあたり、心掛けたことをお聞かせください。
仲村
私が育てたというよりも先輩方が尚志高等学校を少しずつ強くしてくれた過程のなかで、そのような選手たちが通り過ぎて行ったというだけの話です。先輩方が築き上げてきてくれたものを一緒にやらせていただいた結果、プロになれたということです。私は「勝利の女神は細部に宿る」という言葉が好きで、トイレ掃除もその一つという話を選手にしています。現在ドイツのプロリーグで活躍するチェイス・アンリ選手から選権福島県大会の決勝が終わった後に「先生、毎日寮のトイレを掃除していました」と言われ、とても驚きました。「先生が言ったように毎日トイレ掃除をしていたら、こうやって神様がチャンスをくれました」の
言葉通り、劇的な決勝ゴールをあげました。アンリ選手はご両親からスタッフの言うことを信じてやりなさいと常に言われており、素直に実行していたことが一流プレーヤーになれた証だと思います。今もよく電話をくれますが、メンタルを保って自分でやっているのは本当に素晴らしいことだと思います。
佐久間
素直で居続けることはとても大事だと思います。チャンスはたくさんあ
るかもしれませんが、その目の前のチャンスを掴めるかがとても大切で
す。その選手は実直にやっていたからこそ、チャンスをものにしたのだ
と思います。仲村本当に素直さが、成長にとって一番大事なことだと思います。素直な選手が一番伸びます。佐久間私たちがどんなに良い種をまいても、土壌が備わっていないと良い芽は育ちません。こちらの言葉掛けも含めてですが、やはりいかに良い土壌を作ってあげられるかはとても大事だと私は思います。だからこそ、私たち組織は地域をどう作って行くかを考えることが必要不可欠です。子どもたちのなりたいロールモデルの選択肢をたくさん作りたいと私自身も思いますし、組織としてもそうしていきたいです。仲村様も震災後、スポーツを通じてさまざまな選択肢を作られています。一人ではできないことを誰かと一緒にやることも大事だと思います。そういったことも踏まえ、本年度、私は「つながり」というテーマを持って活動しています。今回は尚志高等学校サッカー部とのつながりをきっかけに、尚志高等学校の試合を観戦に行くなどのつながりを構築したいと考えています。サッカーを通じて、仲村様の今後の展望についてお聞かせください。
仲村
福島県は東日本大震災があり、数ヶ月サッカーができない時期がありま
した。サッカーが好きだからこそ、サッカーができないというのは本当に苦い経験でした。しかし、そこからさまざまなことを考えるようになり、震災後から「福島復旧・復興祈念サッカー大会」という大会を毎年開催しています。県外からもサッカーを通して復旧・復興をしようと、福島に来て協力していただいて
おります。また「J-VILLAGECUP」も私が発起人となり立ち上げ、今では日本一の大会になりつつあります。日本一の大会を作ることは、私一人の力では出来ません。今ではU- 十八日本代表やU- 十七日本高校選抜、Jリーグの下部組織、
アメリカのチームが来てくれるなど、本当に素晴らしい大会ができたと思います。それもJヴィレッジの代表でもある内堀雅雄福島県知事が震災の復興はJヴィレッジから、というストーリーを作っていただけました。そして私たちに協力していただけるスポーツメーカーのプーマ様やプロ選手、卒業生など多くの方た
ちがつながっていくことでこの大会が成立しています。現状維持ではなく、来年はもっとビッグネームのチームを呼ぼうとか、形になっていくことで盛り上がり、本当につながりって大切だと感じています。今、私の一番のテーマとして取り組んでいるのが「食育」です。物価が高騰し、寮生活で食べ盛りの子ども達がお米や野菜などがたくさん食べられないという状況にあります。農産物直売
施設で売れなくなった野菜をいただいたり、農業協同組合でインターンシップをやらせていただいたり、その中で地域の方々にご協力いただきながら子どもたちが十分な食事をし、試合に勝つことで感謝の気持ちを伝え恩返しができるのではないかと思っています。
佐久間
そのような取り組みは地域ぐるみで子どもたちのためにこれからも行っていただきたいです。私たち大人が、子どもたちに愛情を持って感謝を伝えたり、行動をしたりすることで、高校生だとしても感謝された経験があれば、卒業してプロの選手になったり、さまざまな道に進んだりしても、社会で成功していくと思います。
仲村
高校サッカーでは必ずテーマに「感謝」が入ります。選手権においてもスタジアムの運営から裏方まで全て負けたチームの選手が行っています。そのような状況下でプレーさせていただけることに感謝しようと選手たちに伝えています。
佐久間
私は「伝える」ということの大切さを感じながら行動しています。「言う」と「伝える」は異なりますし、伝える以上はこちらの責任も伴います。そこでフォローできるからこそ、双方により深い絆が生まれると思います。そういう意味でも、私たち青年会議所がたくさんの方と手を取り合い、つながりを構築していきたいと考えています。是非、私の憧れでもあります国立競技場のピッチで尚
志高等学校サッカー部が全国制覇をすることを祈念いたします。そしてこの郡山から、青年会議所メンバーも一緒に応援に行くことができたら良いなと思います。全国制覇した時には郡山、福島全体が喜び、そんな未来が見えたら素敵だと思います。仲村様最後に本対談を通して一言、市民の皆様にメッセージをお願いいたします。
仲村
私が常に思っているのは高校サッカーの指導者として全うすることです。理由は高校生には変化する素質を秘めているからです。彼らはお金をいただいてプレーしている訳でもなく、家族への感謝や、チームの目標のために一生懸命やっています。その姿を見て市民の皆様は感動するのだと思います。「全国制覇」とい
う目標に向かって一生懸命プレーする選手の姿を市民の皆様に観て
いただけましたら幸いです。
佐久間
仲村様、本日は長時間に渡り誠にありがとうございました。
【プロフィール】
仲村 浩二 様 プロフィール
千葉県出身。習志野高校では日本高校選抜に選ばれ、卒業後は順天堂大学
に進学。大学時代にはバルセロナ五輪予選の日本代表メンバーに選ばれ、五輪予選での日本人最年少ゴール記録保持者。大学卒業後は福島FC、FCプリメーロで
MFとして活躍。一九九八年尚志高等学校サッカー部監督に就任後、二〇〇六年に創部九年目で全国高校サッカー選手権大会に初出場。以後、第九十回、第九十七回全国高校サッカー選手権大会でベスト四進出に導き、現在に至る。