【テーマ】
『楽都郡山のこれからと、地域に根差したオーケストラの果たす役割』

【趣旨】

戦後、郡山市民は音楽を心の拠り所として明るいまちづくりに取り組んできた。その歴史を踏まえ、郡山市は平成20年3月24日に音楽都市宣言を行った。音楽都市宣言以降も、郡山市では年間を通して市民主導で様々な音楽イベントが開催されている。また、中心部の道端には音をモチーフにしたイスやベンチがまちに彩りを与えて、ライブハウスや生演奏を楽しめるお店など、音楽に気軽にふれることができる環境がある。また、2021年に設立50周年を迎えた郡山市民オーケストラは、これまで県や市より様々な表彰を受けており、郡山市を代表するオーケストラとして歩んで来た。市民によるオーケストラとしての長い歴史を踏まえ、その視点から楽都郡山の発展のための今後の課題をお聞かせ願いたい。
一方、仙台市や山形市にはプロフェッショナルで構成される常設のオーケストラがあるのに対し、郡山市にはそれがない。郡山市出身の演奏家の才能が花開いても現状ではプロフェッショナルとして郡山市を拠点として活動することには制約が伴う。したがって、音楽を核としたまちづくりをしている他の都市と比べると、郡山市ではプロフェッショナルの演奏家が拠点とするには制約を伴うという課題があるといえる。
楽都郡山のより一層の浸透ないし深化を図るにあたり、郡山市に所縁のある音楽家の方々とともに上述の課題にいかに取り組むべきか意見を交わしたい。

【対談者】

郡山市民オーケストラ 団長 
佐藤 睦浩 様


一般社団法人 郡山交響楽団 代表理事 
長谷川 弘樹 様


公益社団法人 郡山青年会議所 理事長 
織田 陵平 君

対談内容

織田 陵平 理事長(以下、織田)
本日はお忙しいなかお越しいただきまして誠にありがとうございます。今年は郡山市制施行100周年を迎えますが、地元郡山に少しでも恩返しをしたいという想いがあります。私自身が音楽を専門としてきたこともあり、今年は音楽を1つの柱に青年会議所運動を実施していく所存でございます。そこで『楽都郡山のこれからと、地域に根差したオーケストラの果たす役割』というテーマで今回の対談を実施させていただく運びとなりました。

【誕生の背景と地域におけるこれまでの取り組み】

織田
まずは佐藤様にお話を伺います。郡山市民オーケストラ誕生の背景と、地域におけるこれまでの取り組みについて、どのようなことを考え行ってきたのかお聞かせ願います。

郡山市民オーケストラ 団長 佐藤 睦浩 様(以下、佐藤)
二つの弦楽グループ「郡山市民合奏団」と「郡山市民交響楽団」が最終的に合併して創設したことが起源となっています。多くの関係者様にご尽力いただき後援会組織を設立し、サポート企業を集めて1971年3月9日に郡山市民オーケストラが誕生しました。
地域における取り組みについてですが、当団体は年に2回の演奏会を開催しています。定期演奏会が年1回、そして隔年でファミリーコンサートを開催しています。ファミリーコンサートは1987年から続いていますが、誰でも聴けるコンサートをコンセプトに、企画もののコンサートを開催したり、他のオーケストラのメンバーを招待したりしています。

当団体の規約としてオーケストラを通じて音楽を研究し、地域の音楽文化の向上を謳っています。誰でも入団できるような地域に根差した音楽を届けることが1番大きな目的になります。これは私自身の想いですが、地域の人々にオーケストラを発信してファンを増やしたいと考えています。小中学生の講習会に団員が講師として参加したり、定期演奏会で地元出身のプロの音楽家と共演したり、地元の合唱団と一緒に復興祈念コンサートを行ったりしています。

織田
佐藤様ありがとうございます。長い歴史のなかで、地元の音楽家や団体と一緒になって演奏をされていて、地域に根差した活動を大事にされていることが伝わりました。
次に長谷川様にお話を伺います。郡山交響楽団誕生の背景と、地域におけるこれまでの取り組みについて、どのようなことを考え行ってきたのかお聞かせください。

一般社団法人 郡山交響楽団 代表理事 長谷川 弘樹 様(以下、長谷川)
郡山交響楽団は2021年に誕生しました。コロナ禍ということもあり、個人的な音楽活動も含め全国的にみても音楽活動が停滞していた状況でした。福島県出身のプロの音楽家はたくさんいますが、地元に関わる機会が少ないという意見が以前から多くあったこともあり、このタイミングだからこそやってみようということで郡山交響楽団を立ち上げました。
毎年おおよそ年2回のペースで演奏会を開催しており、今年で3年目を迎えました。当初は福島県出身の音楽家が地元で活躍できるような母体となる団体を作ろうという想いが根底にありましたが、活動を続けていくなかでよりこの組織が強くなるためには、他の地域から音楽家を呼び、オーケストラ活動を通じて郡山で活躍できるというスタンスにした方が、更なる発展に寄与すると考え、様々な紹介を通じて新たな人材を発掘して活動しています。また、地域の子どもたちのために教育活動にも力を入れています。私たちが力を入れているのは「ワークショップ」で、音楽に関心のない子どもたちにも音楽って楽しいなと思ってもらえる機会をつくろうということで、発足当時から力を入れています。この3年間で50校以上、およそ8,000人の子どもたちに、ワークショップや出張演奏で音楽を届けてきました。これからもこの活動を続けていきたいと考えています。

織田
長谷川様ありがとうございます。2021年に誕生したということで当時はまだコロナ禍であり、全国的に音楽活動が停滞しているなかで郡山から誕生したことは非常に意味があることだと思います。また、他の地域からの若い人材の発掘に力を入れていることも、地域の音楽文化の活性化には必要なことと思います。ワークショップに関しましても郡山青年会議所として、子どもたちへの青少年育成事業を行っていますので、興味深い内容としてお話を聞いていました。御二方ともオーケストラとして地域に根差したいという心強いお言葉をいただきました。

【「楽都郡山」が浸透するには】

織田
次のテーマに移ります。「楽都郡山」というブランドが市民や県外の方々へ浸透するためには、どのようなことが必要だと考えますか。
「楽都郡山」は音楽関係者には県内外問わず割りと知られていますが、いろいろな市民の方にお話を伺うなかで、なんとなく知っている、けれどもなぜ「楽都郡山」なのかと疑問に思う方が多い印象があります。郡山市は2008年に音楽都市宣言を行い15年以上経過しておりますが、まだまだ浸透しているとは言い難いのではないかと思い、このようなテーマを考えました。
佐藤様はどのようにお考えでしょうか。

佐藤
まず「楽都郡山」のブランドは何を示しているのかが大事かと思います。郡山は場所が有名ですので、知名度がある地域名を用いることにより地域性を効果的に表していると感じます。また、合唱コンクールで優秀な成績を持つ音楽が1番の音楽であるような、ネームバリューが先行しているように感じます。そういった意味で楽都郡山のイメージをどのようなブランドとして捉えるかが重要かと考えます。また、先程長谷川様が仰っていたワークショップなどの活動を、メディアを通じて広めていくことが必要だと考えます。

織田
佐藤様ありがとうございます。「楽都」というイメージはコンクールで優秀な成績を収めると反映されると私も思います。それはもちろん素晴らしいことですが、音楽とはそれだけではなく、色々な音楽があってその裾野を広げていくことが大事だと思います。
長谷川様はどのようにお考えでしょうか。

長谷川
昨年のことですが、GRe4N BOYZ(旧GReeeeN)のファンの方がライブに来た際に、GRe4N BOYZ誕生の地でありながら、街中で彼らを感じられる機会がない、楽都と謳っているのであれば、合唱や演奏でGRe4N BOYZの曲を聴けるのであればぜひ行きたいという話を聞いて、私も同じことを感じました。そこで私はGRe4N BOYZの曲を街中で演奏する機会をつくりました。当日演奏をしてみますと70~80名の人が集まり、喜んでいただきました。ホールでの演奏だけではなく、街中で音楽を味わえる機会を増やして人が集まってほしいという想いがあります。音楽をする人にとっての楽都だけではなく、演奏会に行くという行為が市民にとっての楽都につながると考えます。

また、民間と行政が一枚岩となって連携することが今後の鍵となると考えます。どういう目標を持つのか、それに対してどのように予算を使い、どう市民が関わっていくのか。このテーマに対して一部の人のみが何とかしようという現状で、そのことが非常にもったいないと思います。ですので、今あるコンテンツを活かすために文化政策の面での改善が必要だと感じています。

織田
長谷川様ありがとうございます。GRe4N BOYZは郡山を代表するアーティストですので、テーマを絞って実践することも集客につながると感じます。長谷川様が仰っていた文化政策の観点は私も非常に共感する部分がありました。政策の計画があれば時間が掛かっても実行することができます。その意味で私たち青年会議所が政策を提言することも1つの在り方だと思っています。

【果たすべき役割とは】

織田
次のテーマに移ります。都市における音楽の役割を全体的に探究していくことが包括的な利益をもたらし、市民が誇りをもてる文化的な都市形成へつながると考えますが、郡山市を代表する市民オーケストラとして、これから果たすべき役割はどのようなものなのか、お聞かせください。佐藤様はどのようにお考えでしょうか。

佐藤
持続化するために知名度を上げていく必要があると考えています。また、色々な場所で活動の裾野を広げていく必要があります。出前演奏や駅前での街中講座に出る機会を増やしたり、郡山市とのタイアップイベントの機会を増やしたりするなど、やはり我々の裾野を広げるような企画が1番だと思います。そのような活動を継続的に行うことで郡山市民の中に浸透していくことが重要だと思います。

織田
佐藤様ありがとうございます。私自身も音楽に携わっている身として、地域の音楽文化の発展や向上に努めてまいります。また、郡山市民へのさらなる浸透への一助となれるよう協力させていただけたらと思いますのでよろしくお願いいたします。
長谷川様は郡山市初のプロフェッショナルのオーケストラとして、どのようにお考えでしょうか。

長谷川
団体を立ち上げた時の目標として、音楽家が活躍できる基盤を作りたいという想いが根底にありました。法人を立ち上げてから思ったことは、その運営にも目を向ける必要があるということです。音楽家だけではなく多種多様な人材が必要だと思っています。オーケストラ活動だけではなく、当団体の運営やそれを支えていくような政策も必要であり、環境を整えていく必要があります。この事業をどういう目的で行うのか、単発のイベントで終わらせないようにするにはどうすればよいかを考え続けることが重要です。そのことが演奏者にとって毎回頑張れる土壌づくりにつながると思います。

織田
長谷川様ありがとうございます。法人という立場で運営面や費用の面で苦労されている印象を受けました。佐藤様も仰っていましたが、持続してこの地域に浸透していき、結果としてオーケストラを応援したいということが大事になってくると思います。

そこで重要になってくるのが、演奏家たちの熱量だと私自身感じています。一聴衆としてオーケストラを聴く機会がありますが、熱量の高い楽団にはファンも大勢おり、地域とのつながりも強いと思います。演奏家一人ひとりの熱量が合わさることで地域全体を引っ張っていく力になると思います。私たちもまちをより良くしたいという強い想いを持って活動していますので、ぜひその想いを実現していただけたらと思います。

【「楽都郡山」の魅力を広めていくには】

織田
次のテーマに移ります。「楽都郡山」の魅力を市民が積極的に対外に広めていくには、どのようなことが必要だと考えますか。

佐藤
市民の中で音楽都市としての郡山市のイメージは「合唱」が強いと思います。その中でオーケストラを広めていくにはどのようにしたらよいか、難しい課題だと思っています。

長谷川
「楽都郡山」としての分かりやすさやシンボルが大事になると思います。郡山市で音楽都市を感じられる場所やポイントがどこかイメージできますでしょうか。

佐藤
なかなか感じられる場所は思いつかないですね。ポイントとしては合唱コンクールやふれあいコンサートなどでしょうか。

長谷川
そうですね。私はこれだけ合唱の文化に熱心な都市は他にはないと思っています。それは誇りですし、指導する先生たちの努力の賜物だと感じています。
郡山といえばというお題に対して思い浮かぶものに、音楽を加えていくレベルから始めていくと良いと思います。楽都だから立派なホールを持たないといけない、オーケストラがなくてはならないという意見が先行してしまうと躊躇してしまいますし、音楽活動の認知を深めていくことが大事だと思います。

佐藤
コロナ禍の前に、郡山駅のなかでコンサートをやっていました。そういう定期的な催しを市民の目に触れる場所で行うことも効果的だと思います。

長谷川
私個人として福島県民は凝り性の人が多いと感じています。例として日本酒づくりが挙げられます。膨大な時間と手間をかけ、かつ味を追求し日本一を目指している。この県民性と取り組む姿勢を音楽にも当てはめることができれば、「楽都郡山」の魅力が対外にもっと広がると思います。

織田
ありがとうございます。私の中で郡山市はお店などが何でも揃っており、当たり前のことが当たり前にできる環境にあるためか、ありがたみを感じる機会が埋もれてしまい、高いクオリティのものが実は身近に存在していることに気づきにくい印象があります。だからこそ、より分かりやすく伝えることが重要であると思います。

【地域で実現したい夢】

織田
最後のテーマに移ります。地域で実現したい夢や、「楽都郡山」の未来についてお聞かせください。
佐藤様よろしくお願いします。

佐藤
地域に根差して演奏を続けられるオーケストラでありたいと考えています。行政と一緒になり音楽都市としての方向性を議論する場があってもよいと考えます。人を巻き込み議論をすることで、多くのサポートを受けられる機会が創出されるかもしれませんし、私たちの活動が認知され、結果として「楽都郡山」が市民に浸透すると考えます。

織田
佐藤様ありがとうございます。長谷川様よろしくお願いします。

長谷川
私は野外音楽ステージでお酒を飲みながら演奏を聴けるような、夏の音楽祭を実現したいと思っています。音楽コンサートをホールだけではなく野外で実施することで、市民やまちに還元できる機会を創出できると考えています。また、私が音楽活動をするうえで、演奏家として演奏する喜びと聴く楽しみを多くの人と分かち合いたいという理念があります。多くのオーケストラがいるなかで、たくさんの人に関わってほしいという想いがあり、そのために努力をして実現したいと思っています。

織田
長谷川様ありがとうございます。コロナ禍以降、野外でお酒を楽しみながら上質な音楽を聴ける機会が減少しましたし、私自身も郡山でそのような機会をまだ経験しておりませんので、是非実現していただきたいです。オーケストラの皆様で牽引し、企画し実現することが「楽都郡山」の認知度向上の1つの大きな力になると思います。

織田
本日は様々なお話をお聞かせいただきありがとうございました。私たちができることは小さなことかもしれませんが、このようなきっかけを大事にして、郡山がより良く発展するためにお力添えをさせていただけたらと思います。本日はありがとうございました。

2024年4月4日対談

【プロフィール】

佐藤 睦浩(さとう むつひろ)様 プロフィール
福島県郡山市出身。
9 歳よりヴァイオリンを、19 歳よりヴィオラを始める。
ヴァイオリンを渡辺栄治氏、ヴィオラを東義直氏・井野邉大輔氏に師事。
郡山市民オーケストラに1975 年、高校入学と同時に渡辺英治氏のすすめで入団。
以来大学時代を除き 2024 年現在まで 43 年間所属している。
現在、郡山市民オーケストラ団長、アマデウス室内管弦楽団及びアンダンティーノ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者。
郡山市内にて高等学校の物理教師を務めている。

長谷川 弘樹(はせがわ ひろき)様 プロフィール
福島県出身。
9歳よりチェロを始める。
桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業、桐朋学園大学研究科修了。
卒業後にスイスのジュネーブにてIseut Chuatの下で研修を積む。
2007年草津音楽祭室内楽コースに奨学生として参加する。
2011年9月〜2014年8月まで兵庫芸術文化センター管弦楽団のチェリストとして活躍する。
これまでに福島県立高校の音楽科講師として教壇に立つ。(平成29年度末に終了)
2021年福島県郡山市に郡山交響楽団を創設。同楽団代表理事。